プリンシパル

PRODUCTION NOTE

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2017年2月下旬、札幌市の琴似神社にてオールスタッフ、キャストが参加しての顔合わせとお祓いが行われた。街中には雪が降り積もり、見渡す限り真っ白になっている。札幌オールロケという贅沢な環境で、これから住友糸真たちのストーリーが紡がれていくこととなる。
翌日から撮影が本格的にスタート。ファーストシーンは、主人公の住友糸真が札恵高校に転校してきた場面だ。黒島結菜、小瀧望、川栄李奈とオーディションで選ばれたクラスメイト役の生徒たちが教室に入り、席に着いた。小瀧は眉間にしわを寄せ、すでに弦という役に入り込んでいるのがよくわかる。このシーンに登場しない高杉を除く、クラスメイト全員が席に着いたところで、篠原哲雄監督が中央へ。「キラキラした中にも人生の機微を描きたいと思っています。よろしく!」と宣言。キャスト、スタッフ一同に気合が入った瞬間だった。

「どうやって仲良くなろう……」と全員が悩んでいたほど、黒島、小瀧、高杉、川栄の4人は全員が人見知りをする性格だ。「最初が転校初日のシーンだったのはやりやすかったなと思います。その後はみんなと仲良くなってきているので、作品の中でも少しずつ距離感が縮まっていったらいいなと思いました」というのが、撮影を2日終えての黒島の手応え。黒島は篠原監督のワークショップに参加した経験があるが、撮影は初めてだ。そんな黒島について篠原監督は、「大学で写真を専攻しているからかな。すごく映像センスがある人だなと思いましたね。自分がどう映っているかをわかっているので、僕らは非常にやりやすい。忙しい中で今回の作品に入ってきたので心配したんですが、すぐに糸真になってくれて安心しました」と、篠原監督も開始早々に太鼓判を押したのだった。

入念な役作りをしていたのは、小瀧望。弦役に決まってから体重を落とし、撮影中も食事制限。常に弦であることを心がけていた。
「いっぱい弦のイメージをしているんですけど、正直なところ近づけているかどうかはわからなくて。今日はすごく疲れました」と初日の撮影を正直に振り返った。そんな小瀧に篠原監督も、「もっと自然体でいい」とアドバイスしたという。「でもその後はほとんど彼に芝居の注文をした覚えはないですね。声のトーンから彼の中でコントロールしていた。完璧に弦になっていたし、若者であそこまでできる人はなかなかいないと思いましたよ」(篠原)
役に没頭したことが花開き、気づけばカメラの前に立つと自然と弦の顔を作れるように。キャンプシーンの撮影日はあいにくの雨模様だったが、待ち時間はキャスト、スタッフ問わずあらゆる人たちと談笑し、「みなさんちゃんとお昼食べてくださいね!」とスタッフに念を押す。大雨という難しい状況になっても、小瀧の笑顔と頑張りが現場を支えていた。

3月某日、この日は2年4組全員が合唱する音楽の授業のシーン。音楽教師の舘林弓を演じる谷村美月が、ピアノ演奏の流れを入念にチェックしている。高杉真宙もまた音楽指導のスタッフに歌のメロディを確認していた。「望はそんなに歌わなくてもいい役なのに、僕より早く覚えていたんですよ」と小瀧をうらやましがる。和央は意外に感情の浮き沈みが大きいだけに、演じる上で高杉はとても悩んでいた。「難しい役なんだけど、僕は和央が大好き。その純粋な気持ちがあるから大丈夫です」という言葉に、静かな自信が伺えた。
黒島とは2度目の共演ということもあり、初日から「りっちゃん」「結菜」と呼び合っていたのが川栄李奈。待ち時間もリラックスしながら二人で雑談をしたり、小瀧や高杉とも冗談を言い合ったり。キャンプのシーンでは苦手なバドミントンを頑張ってみんなのテンションをアップさせたりと、実はこのメンバーのムードメーカーだ。「友達の後押しをしたりと、晴歌は重要なシーンにいることが多いんです。そこは特にうまく表現しなきゃと思っていますね」と川栄自身も語るように、晴歌の存在感はこの作品の鍵となる。

2〜3月の冬パート、6月の夏パートと、季節を分けて撮影された本作。冬パートの最終日は、大きなビール園を貸し切って撮影が行われた。糸真の母である三浦真智役の鈴木砂羽が現場入りし、雰囲気を盛り上げる。篠原組への参加は十数年ぶりとのことだが、「丁寧に撮る人っていう印象は変わらない」(鈴木)と懐かしむ。おいしそうにビールを飲み干し、「真智さんの見どころはよく飲むところ!」と豪快にアピール。冬パートの撮影は無事に終了し、そのままジンギスカンでの食事となったのだった。
そして3ヶ月後、6月に再びキャストとスタッフが札幌に再集結!雪もすっかり解け、さわやかな北海道に一同も思わず笑顔だ。夏パート初日の撮影は、円山動物園での糸真と金沢のデートシーン。なるべく動物も映してあげようと、撮影スタッフが檻の中を見ながらカメラを回す。ホッキョクグマの檻の前で二人が会話をするシーンでは、動物園スタッフの指導のもと、クマたちが自然と二人の前に来るための撮影方法が編み出された。黒島と市川知宏も自然と笑顔。動物たちに癒され、キャストもスタッフも笑顔で終わったこの日の撮影だった。

住友糸真がヒロインになれるかどうか、鍵を握っているのは弦だ。時に恋ゴコロが一方通行になる、不思議な関係の二人。黒島結菜と小瀧望はW主演としてどのような気持ちで撮影を過ごしていたのだろうか。
「W主演だし、僕は初めての主演作。頑張ってみんなをまとめなきゃと思っていたんですけど、これまでそういう役回りをやったことがないので、最初は本当にどうしたらいいかわからなくて、我ながら『スマートじゃないなぁ』と思ってましたね」と、初日は反省を見せていた小瀧。一方の黒島は、「主演なんだって考えるとプレッシャーになっちゃうので、あまり考えないようにしていました。W主演だから、小瀧さんと半分こぐらいの気持ちでいるようにしましたね」と、自分のペースを保とうとしていた。
そんな小瀧だが、撮影2日目にキャストにサプライズを行なっていた。「小瀧さん、キャストのみんなに、モコモコのついたおそろいのスリッパをプレゼントしてくれたんですよ。現場に来たら置いてあって驚きました。優しいですよね」と、小瀧の気持ちを喜んでいた黒島。
「W主演なんだけど意外と別々のシーンも多くて。もっと一緒にお芝居したかったな」と名残惜しさも見せたのだった。

かつてバレエを習っており、プリンシパルに憧れている糸真。雪の中、弦の前で踊る冬パート。そして、未来の自分のために一人で踊る夏パート。その2シーンのために黒島はずっとバレエのレッスンを重ねてきた。夏パートのある日、札幌市内を見下ろすことができる旭山記念公園。いよいよ最後のバレエシーン撮影が行われた。自分の気持ちを見つめ直す大切なシーンでもあるだけに、撮影部もカメラワークを何度も確認している。黒島がバレエのコーチと振りを最終確認し、いざ本番!音楽が響き渡る中、糸真が華麗に舞い踊る。最後のカットを撮り終わった黒島は「やったー!」と満面の笑み。コーチ、篠原監督らと共にバレエのポーズで記念撮影を行い、「天気がよくて、景色もよくて。すっごい気持ちよかったです」と語った。その達成感は、きっとスクリーンに映し出されているはずだ。